犬と月
*神様の踊り子/リグリヤとジェット
*どうしようもないバレンタイン小話
実はこう見えて、リグリヤは無駄なことはしない主義だ。
どういう意味かというと、明らかに無理であること、無謀であることは自ら望んでしない、という意味だ。
それが自分が相手より劣ることだと解っていれば、尚更。
なのにそれをしなければならない時……というか、したい時だって絶対にある訳で。
それが今回の行事だったりする訳で。
「……で、慣れないことに挑戦したら、こんな形になってしまったんです」
何ともいびつで、何とも不気味。『下手』な部類に入るかといえば必ずしもそうではないだろうけれど、確実に『上手』の枠には入れない、そんな出来映えだ。
「絞りクッキー……を、作ろうとしたのか? これは」
何やらそんな形跡が見られる茶色のクッキーを見て、ジェットは言う。珍しく休みの日にせかせかキッチンで働いていると思ったら、これを作っていたらしい。
「ええ。型を持っていないな、と思ったら、絞り器はあったので。でも難しいですね。写真みたいに、綺麗な模様は出来ません」
オーソドックスに星形の口金で絞ったのだろうクッキーは、普通なら曲線が中心に向かって描かれる円形をしているだろうに、何故か妙に横に長かったり、はみ出ていたり。
「お前、料理の才能がない訳ではないんだったな。……そうだな、味はまともだしな。単に絞り出しの腕がないだけか」
「褒められてるんだかけなされてるんだか解りません」
「両方だ。まあ、見た目が良く味が悪いのと比べると何倍もましだがな」
さくり、と良い音を立ててクッキーが消えていく。
ジェットは料理の才能がある。それはリグリヤも知っている。事実、自分よりも彼がやった方が何倍も良いものになる。だからリグリヤは食事を殆ど彼任せにしているし、彼もそれを悪いとは思っていない。才能のある方がやった方が、そしてそれを才能のある者が嫌でなければ、その方が良いに決まってる。
だがそんな一種の『決まり事』は、何もどちらかが口に出したことではない。自然こんな形になっただけだ。
「……いや、しかし、礼を言っていなかったな」
「あ、……どうも」
改めて言われると、何だか少しだけ照れて、違和感を感じた。
……私って本当にこの人のこと好きなんだろうか。
未だによく解っていないのだけれど、これが恋心ならこんなに心地良く、そして時に嫌気がさすものとは。
自分の想像を飛び越えた感情だ。
「どうかしたか」
言われて、ぼんやりとジェットのことをずっと見ていたことに気が付いた。
「あ、いえ、……えーと……絞り出しの上手な方法って、知ってます?」
「まずは急がずやることだ。絞り出しを終える時が一番肝心だからな。そこでしくじると全て台無しだ」
「……なるほど」
そういえば失敗した殆どは最後だったなあ。思いながらも、頭はぼんやり彼の髪のことを考えるばかりで。
もしかしたら、自分は彼を求めているのかも知れない。
それでも黙っている。
拒否されたら、怖いから?
何となく、拒否されることはないと解っているのに?
「ほんとのところ、どうなんでしょう、ねえ」
「何がだ」
「こっちの話です」
知らずため息をついた。
これが恋の病であれば、甘いものではぐらかせるもの?
予告していたバレンタイン即興。
*どうしようもないバレンタイン小話
実はこう見えて、リグリヤは無駄なことはしない主義だ。
どういう意味かというと、明らかに無理であること、無謀であることは自ら望んでしない、という意味だ。
それが自分が相手より劣ることだと解っていれば、尚更。
なのにそれをしなければならない時……というか、したい時だって絶対にある訳で。
それが今回の行事だったりする訳で。
「……で、慣れないことに挑戦したら、こんな形になってしまったんです」
何ともいびつで、何とも不気味。『下手』な部類に入るかといえば必ずしもそうではないだろうけれど、確実に『上手』の枠には入れない、そんな出来映えだ。
「絞りクッキー……を、作ろうとしたのか? これは」
何やらそんな形跡が見られる茶色のクッキーを見て、ジェットは言う。珍しく休みの日にせかせかキッチンで働いていると思ったら、これを作っていたらしい。
「ええ。型を持っていないな、と思ったら、絞り器はあったので。でも難しいですね。写真みたいに、綺麗な模様は出来ません」
オーソドックスに星形の口金で絞ったのだろうクッキーは、普通なら曲線が中心に向かって描かれる円形をしているだろうに、何故か妙に横に長かったり、はみ出ていたり。
「お前、料理の才能がない訳ではないんだったな。……そうだな、味はまともだしな。単に絞り出しの腕がないだけか」
「褒められてるんだかけなされてるんだか解りません」
「両方だ。まあ、見た目が良く味が悪いのと比べると何倍もましだがな」
さくり、と良い音を立ててクッキーが消えていく。
ジェットは料理の才能がある。それはリグリヤも知っている。事実、自分よりも彼がやった方が何倍も良いものになる。だからリグリヤは食事を殆ど彼任せにしているし、彼もそれを悪いとは思っていない。才能のある方がやった方が、そしてそれを才能のある者が嫌でなければ、その方が良いに決まってる。
だがそんな一種の『決まり事』は、何もどちらかが口に出したことではない。自然こんな形になっただけだ。
「……いや、しかし、礼を言っていなかったな」
「あ、……どうも」
改めて言われると、何だか少しだけ照れて、違和感を感じた。
……私って本当にこの人のこと好きなんだろうか。
未だによく解っていないのだけれど、これが恋心ならこんなに心地良く、そして時に嫌気がさすものとは。
自分の想像を飛び越えた感情だ。
「どうかしたか」
言われて、ぼんやりとジェットのことをずっと見ていたことに気が付いた。
「あ、いえ、……えーと……絞り出しの上手な方法って、知ってます?」
「まずは急がずやることだ。絞り出しを終える時が一番肝心だからな。そこでしくじると全て台無しだ」
「……なるほど」
そういえば失敗した殆どは最後だったなあ。思いながらも、頭はぼんやり彼の髪のことを考えるばかりで。
もしかしたら、自分は彼を求めているのかも知れない。
それでも黙っている。
拒否されたら、怖いから?
何となく、拒否されることはないと解っているのに?
「ほんとのところ、どうなんでしょう、ねえ」
「何がだ」
「こっちの話です」
知らずため息をついた。
これが恋の病であれば、甘いものではぐらかせるもの?
予告していたバレンタイン即興。
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